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スローライフはナマケモノ?辻信一さんに聞く、スローライフってなんですか? 辻 信一氏

December 13, 2016

・4つの弱さ「スロー、スモール、ショート、シンプル」を再評価し、真の豊かさを手にする

・省エネ・循環型の生き方をする「ナマケモノ」から見習う『スローライフ』

・現代社会を縛っているマインドセットを降りて「グローバルからローカルへ」

 

 

 

 

 

●最初に

岐阜を4日間旅してきてここに来ました。行く先々で渡邉智恵子さんのお話が出てきましたし、また行く先々でコットン復活の動きが起こっていることを実感してきました。

 

●自己紹介

ぼくは文化人類学を教えつつ、環境活動家でもあります。

今日最初に、大学1年生の授業用のスライドをお見せしながら、普段こんなことを話しているということをお伝えしようと思います。どうすれば、未成年の若者たちの心に触れることができるか、ぼくなりの工夫の末に作ったものです。

 

●タイトルは「弱さと愛の人類学」

ぼくはずっと「弱さ」というテーマで考えてきました。その弱さの中身として、次の三つがある。

Slow スロー

Small スモール

Simpleシンプル

これら三つはどれも「負」であり、「否定」の言葉です。Small、つまり「小さい」とは、「より大きく」を求める社会で、「十分に大きくない」ということ。

Slow、遅いということは、「より速く」を求める社会で、「十分に速くない」ということ。

Simple、それは「より多く」を求め続ける社会において、「十分に多くない」ということです。

 

ぼくはこの三つに最近は四つ目のShortショートを加えています。グローバリゼーションは、距離が長ければ長いほどいい、という考えなので、その結果、地球の裏側から持ってくるものが近所から調達するものより安い、ということになるわけです。でもこの考え方が、環境問題をはじめ、多くの深刻な問題を引き起こしている。問題を解決するためには、距離を縮めること、つまり、ショートが必要です。ぼくはそれを「GlobalからLocalへ」の転換と表現します。

 

 どれも今の社会では負の価値とされている、“弱さ”とされているこれら“4つのS”を、もう一度、再評価しよう。そして抱きしめよう、というのが、ぼくの提案です。“4S”の方にこそ、真の豊かさがあるということを考えてみたいと思うんです。

 

 

 

●4つのS=弱さ

 

マインドセット=世の中を規定している基本的な考え方の枠組み、無意識の土台、こういうものに、私たちは考え方を縛られているのです。

 

  • 現代のマインドセットとは何か?

 

今日はその一つ、「弱肉強食」について考えてみましょう。

「弱肉強食」という現代にいたっても多くの人を捉えている概念は、ダーウィンの進化論から来ているように言われています。でも実は、ダーウィンは一言もそんなことを言っていないのです。

①「食物連鎖のピラミッド」

例えば、ライオンとシマウマはほんとうはどちらが強いのでしょうか?

これを考えるには食物連鎖のピラミッドを考える必要がある。例えば、図のような、「タカ―小鳥―肉食昆虫―草食昆虫―植物」というピラミッド。タカは毎日10羽の小鳥を食べ、小鳥は毎日10の肉食昆虫を食べ、肉食昆虫は10の草食昆虫を食べるとすると、タカは1000の草食昆虫を必要とする。その草食昆虫はもちろん、植物に支えられている。それが何かの理由で少しでも減ったら、タカは生きていけない。

このように見れば、裾野の豊かさに支えられて頂点に立っている者ほど、一番脆い存在だ、ということになります。その意味では、一番「強い」と思われている者が、一番「弱い」。

 

②ナマケモノ的な生き方

「速ければ速いほどいい」が現代世界のマインドセットです。特に経済最優先の世界では、不断のスピードアップと効率化が生命線です。

逆にぼくの尊敬するガンディーに「良きことは、カタツムリのようにゆっくり動く」

という言葉があります。ちなみに私の最新刊のタイトル、『よきことはカタツムリのように』はそこから来ています。

 

ぼくは1998年にナマケモノ倶楽部(通称ナマクラ)をつくり、「スローライフ」運動を始めました。きっかけには南米でのナマケモノとの出会いがありました。

まずナマケモノがすごいのは、常に微笑んでいること。

一緒にナマクラをつくった友人の環境活動家アンニャ・ライトが、「ナマケモノは森の菩薩だ」と言ったのは深い洞察だったと今でもぼくは思う。ブラジルのある先住民族がナマケモノにつけた名は、「空を支える者」です。

 

ナマケモノはとても動作がゆっくりで、言わばスローの方向に進化してきたという不思議な生き物です。

のろい=筋肉が少ない=低エネルギー、低たんぱくの食事しか必要がない=省エネ、低エネの生活である、ということです。

殆どの動物が、「高エネルギー、高タンパク」の餌を求めて争い、勝ったものだけが生き残るという流れにあるのと、逆行している。

以下、さまざまな研究の結果わかってきたこと。ナマケモノは筋肉が少ないので、体が軽い。木の高みの細い枝にぶら下がれる。あまり動かないし、保護色で木に完全に同化するので、天敵に見つかりにくい。葉っぱを食べるので、他動物と競合せず、飢える心配もない。

なんだ、これってある意味、遅くなることで一番非効率な生き方を得たような・・・

もうひとつ、すごいこと。ゆっくり消化し、7日か8日に一度しか排泄をしない。それもわざわざ危険を冒して木の根元に降りてきて、小さい穴を掘って糞をする。これは、高温多湿の熱帯林の中で、確実に栄養を木に返すための方法だったんです!

木から与えられた栄養を、その同じ木に返そうとする循環型の生き方。自分の生きる生態系を自分が支えるという生き方、それが自然の循環というものであり、これこそが人間にとっても、本来の生き方だったのではないか。

 

③「僕らは世界に一つだけの花」

SMAPも歌った歌ですから皆さんご存知でしょう。

この中の、ナンバーワン<オンリーワンという考えが重要です。

どんな生物も、自分の生きるニッチ(すみか)をそれぞれ持っている。同じすみかを争うのではなく、それぞれが独自の領域を持ってすみわけをしています。

 

でも人間だけは、他の生物のニッチを奪って、種の大絶滅を招いてしまった。

これも、弱肉強食的なマインドセットのせいではないでしょうか?

 

④競争

現代世界でこのマインドセットは「競争」という言葉で表されることが多い。「人生は競争だ」とか「競争しないと人はナマケモノになる」とか「競争によって経済は成長し、社会は進歩する」とか・・・

でも、競争って何?

同じニッチを巡る争いのことで、それには勝ち負けがあります。でも、なぜ同じニッチをめぐって競争する必要があるのか?「すみわける」ことこそが、知恵というものではないか?本当に、勝ち負けがあるのが当たりまえなのか? また、「競争に勝たなくては生き残れない」というのは本当なのか?

 

 

⑤人間は一番偉くて、一番強い?

先住民の社会には、他の動物たちも人間で、それらをも含めた「社会」を想定しているものが少なくありません。ぼくがあったエクアドルのシャーマンは、川イルカを指して、「イルカは本当は人間、それも我々より高級な人間」と言っていた。

イルカ人間、ジャガー人間、ナマケモノ人間パーソン、というふうに、違う種類の、でも人間なのです。

また、動物はもちろん、植物、森、石、川…全ての存在とコミュニケーションをとれると考えている社会も多い。そして、そのどれが欠けても、世界は不完全であり、また、そもそも、そのすべてが一体となって人間の生存をからくも支えている、と考えている。

実はこれこそが、現代科学がやっとのことでたどり着いた結論なんですが。

でもわが現代社会はいまだに、古いマインドセットから抜け出せない。自然を資源とみなし、自分の都合に合わせて好きなように、好きなだけ使えばいいと。資源にならないものは無駄だからなくなってもいい、と。

 

 

⑥「人間 VS 自然」という二元論、「強弱」の二元論

人間が自然から分離されておこる

  個人  自然欠乏症外

  社会  環境問題

として症状が現れます。

これは人間と自然のつながりを断ったことが原因です。

 

 

「人間対自然」という二元論、そして、「強弱」の二元論から抜け出るための、心の練習として、とりあえず、三つあげておきます。

1 弱い者の視点に立ってみる

2 違いの大切さに注目する

3 依存と相互依存に気づく

 

まず1と2に関しては、金子みすゞの詩が役立ちます。

 

A 金子みすゞ「大漁」

  朝焼小焼だ

  大漁(たいりょう)だ。

  大羽鰮(おおばいわし)の

  大漁だ。

 

  浜(はま)はまつりの

  ようだけど

  海のなかでは

  何万(なんまん)の

  鰮(いわし)のとむらい

  するだろう。

 

B 金子みすゞ 「積った雪」

  上の雪

  さむかろな。

  つめたい月がさしていて。

 

  下の雪

  重かろな。

  何百人ものせていて。

 

  中の雪

  さみしかろな。

  空も地面(じべた)もみえないで。

 

C 金子みすゞ 「私と小鳥と鈴と」

  私が両手をひろげても、

  お空はちっとも飛べないが、

  飛べる小鳥は私のように、

  地面を速く走れない。

 

  私が体をゆすっても、

  きれいな音はでないけど、

  あの鳴る鈴は私のように、

  たくさんな唄は知らないよ。

 

  鈴と、小鳥と、それから私、

  みんなちがって、みんないい。

 

ABは自然の気持ちになってみる。弱い者の気持ちになってみる、ということです。

Cは違いに注目して、その違いを抱きしめる、ということです。

 

次に3番目の「依存・相互依存」について。

ヴァンダナ・シヴァは、「自分が全生命に依存していることを知るべき」と言います。

他の動植物も含んだ社会を想定し、酸素や木や生き物など全部が参加する「アースデモクラシー(地球民主主義)」を提唱しています。

 

「依存」という言葉も現代社会の「負」の記号です。

依存と言えば、高齢者や赤ちゃん、障害者など助けを必要とする「弱者」が連想されます。だからこそ、弱者はよく、面倒で、厄介な存在、そして時には、「なければない方がいい」とさえみなされてしまうのです。

 

7月26日の相模原やまゆり園での大量殺傷事件には、ぼくひどい衝撃を受けました。

その後、戸塚の善了寺で<ポスト7.26シリーズ>という連続講座を行いました。

あの事件の容疑者が重い障害をもった人たちについて言った言葉に「あの人たちは生きる意味がない」というのがあった。

「生きる意味」とは何か? 生きる意味があるとかないとかは、誰が決めるのでしょうか。

 

そもそも「依存しないと生きられない人」と「自立している人」とを分けることができるでしょうか。ふだん自立していると思っている自分って、果たして本当に自立しているのか考えてみるべきです。

実は一人だけで生きている存在はない、社会では多くの人たちの支えで生きながら、助けたり助けられたりして生きている。また生存することそのものが生態系に依存し、酸素や水や食糧をいただいて生きながらえていることに気づきます。私たちから依存を引いたら何も残らないくらいです。

その意味で、「すべてはギフトである」というふうに考えたほうがいい。

私たちは全面的に依存し、また相互依存して生きている、と。

このことを認めることは、すなわち自分の「弱さ」を認めることでもある。

「弱い」自分、「弱い」あなた、だからお互いに依存し合う。

それを受け入れることから、すべては始まります。

 

⑥エコロジー

ティク・ナット・ハン(ベトナムの聖人)の詩句。

「この一枚の紙の中に

    雲が浮かんでいる」

 

エコロジーとは一枚(ひとつ)の中に全てがあるということ。

エコの語源はギリシャ語で「家」を意味する意味「オイコス」。だから、エコロジーとは、相互依存の網の中に生き、生かされていることを理解する知恵。エコロジカルな生き方は、こうした無数のつながりに気づくことからはじまるのです。

 

⑩まとめ

4S=「スロー、スモール、シンプル、ショート」な生き方とは?

 

それは、「より速く、より大きく、より多く、より長い・・・」といった、現代社会を縛っているマインドセットから「降りる」ことを、そういうマインドセットを超えることを、意味する。

 

アインシュタインは

「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットで、その問題を解決することは出来ない」と言った。

ぼくたちが生まれ合わせたこの現代は、マインドセットそのものを転換する必要=大転換期なんです!

その大転換(ザ・グレート・ターニング)の環に連なろう!

 

その「大転換」をぼくなりに一言で表現しようとすると、「グローバルからローカルへ」となる。

今や世界を支配するまでになったグローバル化とは、一部の巨大企業が全世界を単一市場として、最大限の富を手に入れ、全地球を我が物にすることだった、

その結果は悲惨だ。地球生態系も社会も大混乱、もはや人類の存続そのものが危ぶまれるところにまで行きついてしまった。そこから抜け出すための道が、ローカリゼーション。もう一度、経済をローカルで、持続可能なものへとシフトしていくこと。

   ↓

ぼくは国際的なLOCALIZATION MOVEMENTに参加しています。

来年2017年11月には久しぶりに大きな国際会議をやろうと思っています。ローカリゼーション運動のリーダー、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、サティシュ・クマールをはじめ、ローマ市長やソウル市長など大転換運動の先頭に立つ人たちを日本に呼ぶ計画です。

 

ローカル化というと、世界が狭くなることだと思っている人がいるけど、実は逆。

ローカリズムが世界的であり、グローバリズムが偏狭であるという逆転が起こっています。

今、日本でも世界でも「グローバルからローカルへ」の流れが強まり、ローカル同士が世界中でネットワークによってつながっていく。この草の根の広がりこそが、本当の意味のグローバル化なのです。

今日本でもIターンやUターン、Jターンなどが起こっていますが、実際に体が移動してなくても、心がターンを起こしている人もたくさんいます。まさにGreat Turningの時代です。

ここにいる皆さんもそう。こうした世界史的プロセスの中にいることに気づいているにちがいない。

 

最後に、エクアドルの先住民の友人から聞いたお話を紹介します。

森が燃えていました。動物たちは我れ先にと逃げていきます。でもクリキンディという一羽のハチドリだけがその小さなくちばしの先で、水を一滴ずつ運んでは、火の上に落としていきます。動物たちはそれを見て、「そんなことをしていったい何になる?」と言って笑います。クリキンディはこう答えました。「私は、私にできることをしているだけ」。

 

皆さん一人一人がハチドリのクリキンディです。

 

講師:辻信一様

 

 

 

文化人類学者。環境運動家。明治学院大学国際学部教員。

「スローライフ」「GNH」「キャンドルナイト」などをキーワードに環境=文化運動を進める一方境共生型の「スロー・ビジネス」にも取り組んできた。東日本大震災以後は、「ポスト311を創るキャンペーンを展開。著書に『スロー・イズ・ビューティフル』(平凡社)、ゆっくりノートブックリーズ(全8巻、大月書店)、 『ナマケモノ教授のぶらぶら人類学』(SOKEIパブリッシング)など。 最新刊は、『よきことはカタツムリのように』(春秋社)。

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