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知っていますか? DVのほんとうの怖さ  梶山 寿子氏

September 20, 2016

・「夫が妻を殴って何が悪の?」米国でDVが社会問題になっていた94年 日本の現状

・暴力はごく一部。DVの本当の目的は「相手を支配すること」

・DVの最大の被害者は子どもたち。子ども向けのDV予防教育で「根治」をめざす

 

 

 

【渡邊智恵子より紹介】

梶山さんとは2年前に婦人公論がご縁で出会い、こんなすごい文章を書ける人がいる、本質を捉えられる人なんだと感心しました。梶山さんはずっとDVのことを取材、報道してきた方で、マイノリティ、虐められている子供たちなど、陽の当たらない場所にいる人たちを取り上げ続けていることに感動しました。

「智恵子と仲間たち」のこの勉強会は、特に女性たちに、問題となっている事実そのものを知ってもらい、自分で判断をしてもらいたい、という趣旨ではじまったものです。9月からの新しいクールを、梶山さんのお話で始められることを嬉しく思います。梶山さんよろしくお願いいたします。

 

 

【梶山様講話】

こんなお天気の中を(ちょうど台風16号通過中)来てくださってありがとうございます。

先日DVについての私の新刊『夫が怖くてたまらない』を渡邊さんにお送りしたところ、それがご縁でこんな会に呼んでいただきました。ありがとうございます。

 

この本のもとになったのは17年前に書いた本です。22年前からDV問題に取り組んできましたが、当時の日本にはまだDVという言葉もなく、日本語で書かれた一般書籍はもちろん、調査研究もほとんどありませんでした。ドメスティック・バイオレンスは直訳すると「家庭内の暴力」ですが、今では「DV=夫婦や恋人間の暴力」として、言葉自体はずいぶん知られるようになりました。流行語大賞に選ばれたこともあります。

 

今日は、この20年の間に「変わったことと変わらないこと」「本当のDVの怖さとは?」「DVをなくすことはできるのか、希望はあるのか」いうことを中心にお話をしたいと思います。

 

 

  1. 変わったこと

 

15年前(2001年)にDV防止法ができました。DV防止法ってご存知でしょうか?

(正式には「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)

 

(参加者)

――2,3年前になんとなく知った。

――法律になっていることは知らなかった。なぜ家庭内暴力だけが特別に立法化されたの

か?暴力の一つではないのか?

 

(「知らない」という人がかなりを占めるのを受けて)今日ここにいらっしゃるのは社会問題に関心の高い方だと思いますが、それでも「DV防止法を知らない」という方が多いことに驚いています。

 

今、ご質問にもあったように、DV防止法が検討されたときに、「既存の法律で対応できるのではないか」といった議論もありました。ですが、韓国などアジアの近隣諸国でも、DV防止法は日本に先駆けて制定されていました。それなのに日本はどうなのか、国際的にみると、女性の人権に関する意識が遅れているのではないか――そう言われてきたのです。

(95年の「北京世界女性会議」、そして、国連の「女性2000年会議」で「女性に対する暴力に関して法整備を進めること」が合意されたことが、法整備の追い風になった)

 

私が最初のDVの本を出したのは、DV防止法ができる2年前の1999年です。

94年に取材を始めた頃、私はアメリカに住んでいました。OJシンプソン事件をきっかけに当時、アメリカではDVが大きな社会問題になっていました。同様の被害は日本にもあるはずだと思い、「記事にしたい」と日本の出版社などに企画を持ち込みましたが、驚いたことに、「夫が妻を殴って何が悪いの?」と言われたのです。編集部トップのある男性に、「犬が人間を噛んでも当たり前で記事にならないけど、逆に人間が犬に噛みついたらニュースになる。妻が殴られてもニュースにはならないから、人間が犬に噛みつくような話を持ってきてよ」と言われたことは忘れられません。

 

ですが、DV防止法ができて、「妻を殴るのは犯罪」と認められ、隠れていた被害が表に出るようになりました。それまでは泣き寝入りを強いられて、誰にも相談できなかった人たちが、「助けを求めてもいいんだ」と勇気を出したのです。

 

2001年のDV防止法施行以来、相談件数は右肩上がりです。2001年の36000件から、2014年には103000件と約3倍になりました。DVの件数が増えたのではなく、声を上げた人が3倍になったということです。警察が把握しているDV事件は63000件です(2015年、過去最多)。

 

それまで警察は、民事不介入といって、家庭内のことには立ち入りませんでした。DVは密室内で起こることで、現行犯でもない限り逮捕されない。加害者はやったことを認めないし、被害者も隠したがるものだったのです。

 

暴力を受けても、なぜ被害者はそれを隠すのか。なぜ逃げないのか。DVでは、マインドコントロールによって、被害者は「自分が悪いのだ」と思っている。「自分がバカだから、こんなことになる。私がもっと尽くせばいいのだ」と思い込まされているから、「逃げる」という選択肢は思い浮かばないのです。「このままでは殺される!」という事態になり、周りに相談しても、信じてもらえないことも多い。DVの加害者の多くは外面が良く、おとなしい人が多いので、「あんないい人が、信じられない」ということになってしまう。それでさらに絶望して、生きる力を奪われてゆくのです。

 

 

 

  1. DVの本質とは?

 

DVとは何か。改めて考えてみましょう。アメリカでは年間の被害者は200~300万人と言われています。日本でも、3人に1人、あるいは4人に1人が被害にあったことがあるという、総理府の調査結果があります。同じ調査で、20人に1人は「命の危険を感じたことがある」と答えています。つまり、ここにいる皆さんのなかに、何人かDV被害者がいることになる。普段は気が付いていないだけで、いったん意識し始めると、「もしかして、あの人もそうかも?」と気づくことが多くなると思います。

 

DVとは、殴る、蹴るという身体的暴力を加えることだと思われていることが多いのですが、実は身体的暴力は虐待のごく一部です。加害者の目的は「相手を支配すること」。支配するための手段として、暴力や暴言、脅迫などを使い、心を壊していくのです。子供への虐待もありますし、ストーカー行為もあります。妻の浮気を疑って、ずっと携帯に電話をかけ続けたり、監視をしたりと、執拗に追いかけるのです。また、経済的暴力も使われます。簡単に言うと、お金を渡さないということで、行動の自由を奪って、周囲から孤立させることで、マインドコントロールをかけやすくする。家に鍵をかけて、外の人とのコンタクトをシャットアウトする例もあります。DVの手口や手法は、どのケースも驚くほど似ています。

 

こうした状態でマインドコントロールされると、「逃げたい」という気力もなくなります。よく監禁事件の報道で、「被害者は逃げられたはずなのに、なぜ逃げなかったのか?」というコメントが聞かれますが、マインドコントロールによって、たとえ鍵がかかっていなくても「逃げよう」とは思わなくなるのです。

 

被害者は女性だけに限りません。妻によるDVもありますし(特に心理的暴力の場合)、ゲイのカップルにおけるDVもあります。その場合、男性が被害者になりますが、被害者の数で言うと、圧倒的に男性から女性へのDVが多いのが現状です。

 

先程も言ったように、DVでは「支配すること」が目的で、暴力はその手段です。被害者は、いつ暴力が爆発するか、24時間緊張して、怯えながら生活しています。それは地獄のようなもの。なので、たとえ別れることができても、その恐怖が深い心の傷となり、回復までに長い時間がかかります。

 

この20年で「変わったこと」はDV防止法ができて、相談の件数が増えたことですが、「変わっていないこと」は、今お話ししたような「DVの本質」が、依然として伝わっていないことだと思います。この勉強会に来てくださった方もそうですが、DV防止法があることや、被害にあったとき、あるいは身近な人が被害者だと知ったときに、どこに相談していいかわからない人がまだまだ多い。ちなみに、シェルターといわれる施設は、日本にも官民あわせて120くらいありますが、あまり知られていません。

 

 

(渡邊質問)

・そんなにDV被害が多いなら、シェルターは圧倒的に足りない。

・どうしてそんなことがおこるのか?征服欲の表れなのか?征服欲の少ない人はそういう

ことを起こさないのか? 

 

 

(参加者意見)

・日本では、女性の人権が軽視されているのでは。

・DVは身体的なものはわかりやすいが、精神的DVなどは見えにくい。攻撃を受けていても、攻撃なのかどうかもよくわからないままになっていることが多い。のびのびした本来の自分に気付くことがない。

 

 

  1. 子どもたちへの影響

 

DVの最大の被害者は子どもたちです。子どものいる家庭では、4割以上のケースで、加害者は妻だけでなく子どもも虐待すると言われています。たとえ子どもに直接手をあげなくても、親のDVを目の当たりにするだけで、子どもは深い心の傷を負います。(こうした「面前DV」は、ようやく子どもの虐待として認められるようになった)。

 

子どもたちは親のDVを自分のせいだと思いがちです。「私が悪い子だから、お母さんがひどい目にあうのだ」と。そして不登校になったり、拒食症になったり、また暴力的になったりします。「お父さんのようにはなりたくない」と思いながら、大人になってから自分が加害者になってしまうケースも多く(暴力の連鎖)、そういう人たちは深い葛藤を抱えてしまうのです。

 

子どもの変調をきっかけに、このままではいけないと気づく母親もいますが、経済的な問題や、「どんな親でもいたほうがいい」という周囲の助言で、別居や離婚に踏み切れない被害女性もたくさんいます。ですが、それは本当に子どものためになるでしょうか。

 

次世代に暴力を連鎖させないためにも、子どもたちの心のケアは重要です。ところが日本では、子どもを専門に診る精神科医がとても少ない。子ども向けの対策も遅れています。

 

ホットラインやシェルターの整備など、目の前の被害者を救うための対策は、いわば「対症療法」です。重要なのは「根治」、暴力そのものをなくすため対策です。鍵となるのは子ども向けの予防教育でしょう。将来のDVを防ぐためにも、小さいうちから子どもたちに、男性も女性もお互いを人として尊重し、大切にしなければならないことを、教えるべきだと思います。先程のご意見にもあった「人権」について、子どもの頃から教える。また、「デートDV」という10代のDVも深刻なので、この対策も急務だと思います。

 

 

  1. 被害者の心理

 

被害が潜在化する理由のひとつに、「自分がDVを受けていることを認めたくない」という心理があります。相手が加害者であることを認めることは、その人をパートナーに選んだ自分の否定にもつながるからでしょう。

 

最近、注目されているモラハラ(モラル・ハラスメント)も、立派なDVです。モラハラはDVの精神的暴力ですが、モラハラの被害者は、なぜか自分がDVの被害者だとは認めたがりません。でも、よくよく話を聞くと身体的暴力も伴っている例が少なくないのです。

 

いまどきのヤンママ、ギャルママも、メンタリティーは耐え忍ぶ“昭和妻”と変わりません。親がDVを見て育ったり、自分も虐待された場合、今度は自分がDVやモラハラの被害者になってしまうケースもあるのです。

 

被害者が暴力から抜け出せないのは、暴力にサイクルがあることも関係しています。

「緊張期」→「暴力の爆発期」→「反省してやさしくなるハネムーン期」→再び「緊張期」→「暴力の爆発期」…… というサイクルをずっと繰り返すのです。ハネムーン期では、「もう二度とあんなことはしない。おまえがいないとダメなんだ」と反省したり、ケーキや花束を贈ったりと、人が変わったようにやさしくなります。被害者は「やっぱりこの人には私が必要なんだ」と思ってしまい、「彼もきっと改心してくれる」と希望を抱いてしまう。ところが、しばらくするとまた元に戻り、暴力が始まるのです。

 

 

  1. 加害者の心理

 

加害者は罪の意識が薄く、ほとんどの場合、自分の暴力を認めません。

また、被害者が別れを切り出すと、暴力や脅迫はエスカレートします。加害者は別れたくないので、執着心が強まるのです。離婚手続きもスムーズに進みませんし、離婚が成立しても、ストーカーとなってしつこく追いかけてくるケースが多いのです。

 

アメリカでは、逮捕された加害者は(実刑の代わりに)強制的に更生プログラムを受けさせられます。自分の罪を認めることや、怒りを抑える方法などを学びますが、実は3、4割の人は、自分のしたことを認めず、ドロップアウトします。「自分が悪いと認めるよりは、刑務所のほうがマシ」だというわけです。

 

こうした更生プログラムは、残念ながら日本にはまだ導入されていません。(暴力をやめたいと思う男性向けのワークショップなどが一部で行われている程度)

子ども向けの暴力防止教育も、ほとんど行われていないのが現状です。

 

(「どういう人が加害者になりやすいか」という参加者からの質問を受けて……)

誰でも、どんな人でもなりうると思った方がいいでしょう。ただ、子どものとき虐待を受けた人、DVのある家庭に育った人が加害者になってしまうケースは多い。また、トラウマを抱える男女が惹き合って、「暴力のない家庭をつくろうね」と誓い合ったにもかかわらず、結果的にDVになってしまうこともあるようです。

 

アメリカの専門家は、男性は「他者をコントロールしたい」という願望を心の底に持っているため、それがDVを引き起こすと言います。加害者には、自己評価が低く、自信のない人が多いため、「男は強くあらねばならない」という「男らしさの呪縛」に苦しめられる。自信のなさや、不安や恐怖を暴力で隠そうとして、DVに陥ってしまうようです。

 

 

  1. 予防のため、被害者支援のため、私たちにできること

 

DVは次世代の暴力や、様々な犯罪につながる可能性がある。その対策費用や医療費などは膨大なため、アメリカでは福祉経済学的な観点で、予防のためのプログラムや被害を受けた子どものケアに予算を投じています。つまり、予防するほうが予算の節約になる、というわけです。それに対し、日本政府は予防まで手が回っていません。繰り返しになりますが、子どもたちへの教育が暴力を減らす道であり、DV根絶の鍵であることは間違いありません。対策が急がれます。

 

一方、目の前の被害者を救うために、私たちにできることは何か。身近にそんな人がいたら、まずは話を聞いてあげてください。そして、「あなたは悪くない」と言ってあげてください。それだけでも十分な支援になります。

 

私がDV問題に取り組むようになったきっかけは、日本人の友人が被害者だと知ったことです。先程も言ったように、当時アメリカではDVが大きな問題になっていて、対策が一気に進みました。90年代半ばのクリントン政権のときです。その背景には、クリントン大統領の母親がDV被害者で、彼が子どもの頃、母親が虐待されるのを見て育ったことがあると言われています。自身の経験から、大統領はDV対策に格別の思い入れがあったのでしょう。

 

そんなときアメリカにいて、DVに詳しくなっていた私は、「アメリカではDVは犯罪なんだよ」と、その日本人の友人を電話で励ましました。「同じような目にあっている人はたくさんいるよ」「自分を責めないで。悪いのはむこうなんだから」。アメリカの新聞や雑誌記事の受け売りでしたが、そんな私の言葉で、友人は「自分は犯罪の被害者だったんだ」と気づいたと言います。そのことが、前に踏み出す力になったと。

 

「あなたは悪くない」。その一言で救われるのなら、苦しんでいる多くの人に、同じことを伝えるべきだろう。そう思って、日本でもDVを報道したいと考えたわけです。

 

私の友人のように、誰にも相談できずに、ひとりで恐怖と闘っている被害者は、今もたくさんいるはずです。被害者も、そして周囲の人たちも、正しい知識や情報を持つことが力になります。DVが何か知っていれば、被害者のSOSに気づきます。被害者が自分の人生を取り戻す手助けができます。今日の勉強会もそのためにあると考えてください。そして、今日得た知識を、家族や友人など5人に伝えてください。そうやって少しずつ正しい知識や情報が広まれば、いつかは社会を変える大きな力になる。私はそう信じています。

 

 

講師 : 梶山寿子(かじやま・すみこ)

プロフィール

ノンフィクション作家。放送作家。神戸大学卒業。テレビ局制作部勤務を経て、渡米。新聞記者として働きながらニューヨーク大学大学院で修士号(M.A)を取得。その後フリーに。DV防止法制定前からドメスティックバイオレンスの取材、及び啓発活動を続け、『女を殴る男たち』(文藝春秋)、『家族が壊れてゆく』(中央公論新社)、『子どもをいじめるな』(文春新書)他を発表。社会問題や女性の生き方・働き方、社会起業家、ソーシャルビジネス、教育問題など幅広く取材・執筆。アーティストや企業経営者、コンテンツ・ビジネスのプロデューサーなどを対象にした人物ノンフィクションも数多く手がける。朝日新聞で書評も連載中。セミナーの企画や講演活動のほか、放送作家としても活動している。

 

 

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